システムコーチング®の成果を定量化する / ORSCC 三橋新

Sansan株式会社 人事部 社内コーチ / ORSCC 三橋 新

システムコーチング®︎と出会うまで

私が「社内コーチ」になった背景にはベンチャー特有の苦悩を感じていたことがあります。

ベンチャーにおいては、しばしば掲げる目標は常に社員の力を遥かに超えるチャレンジングなものです。大きなチャレンジをしていくことがベンチャーで働くことの醍醐味でもあり、ほとんどの人がそれを自覚しチャレンジしたいと入社しています。しかし中にはストレッチした目標を達成し続けられないことで、自分を責め、疲弊していく仲間もいます。

Sansanも例に漏れずその状況にありました。

社員が持っている力を発揮しきれていない状況の中、私はもどかしさともったいなさを感じて何とか力になれないものかと漠然と考えていました。私自身、自分の可能性について模索していた時期でもありました。今から7年前のことです。

その頃社内では、「あなただからできることは何ですか?」という1つの問いに対して、自分以外の全社員と家族や昔の友人からフィードバックをもらうという取り組みがありました。

ここでは詳細は省きますが、私はこの「ポジティブフィードバック」が転機となりました。これまで自覚していなかった自身の強みに気づくことができ、それをもとに自身の強みを活かす分野を模索する中で「コーチング・バイブル―本質的な変化を呼び起こすコミュニケーション(CTIジャパン訳:東洋経済新報社)」という本で下記の一節に出会ったのです。

People are Naturally Creative Resourceful and Whole. (NCRW)

人はもともと創造力と才知にあふれ、欠けるところのない存在である。

(p.22 第1章:コーアクティブ・コーチングのモデルより)     

人の可能性に焦点をあて関わること、それを社内で実践できれば個人が本来持っている力を発揮でき、個人としても会社としても可能性が大きく広がるのではないか、そしてこれこそ私自身の強みを最大限活かせる分野ではないかと感じました。その後すぐ「パーソナルコーチング」を学び、社内で実践していきました。

しかし、1on1のコーチングセッションをきっかけに個人がいかに元気や勇気を取り戻しても、所属組織に戻って力を発揮できないケースも見受けられ、パーソナルコーチングだけの関わりに限界を感じるようにもなっていました。

そこにはチームメンバーとの関係性の課題があり、「個人と組織」どちらも扱うことが重要だと痛感したからです。

そうして組織の関係性を取り扱うシステムコーチング ®を学び始め今に至ります。


「システムコーチング®の成果を定量化する」


こうして始まった組織への取り組みですが、「組織を良くしたい」という想いのある人たちが、新たな施策を企業内で提案する際に「よくぶつかる壁」に私もぶつかりました。

それは実践したことがない未知の段階から、「定量成果」の算段を求められること。

企業内で新たな施策を始める為に大切なことは独りよがりにならないことです。 組織の視点で物事を考え、組織の共通言語で対話をすることが重要です。

私もコーチングを開始した当初、この視点を持つことができず「内面の変化なんて定量化できるものではない」「現場のクライアントが良いと言ってくれているのに、なんでわかってくれないんだ」と思いうまく展開していけませんでした。

そして思うように進まない中で、考え、試みたことがあります。「決済者と繰り返し対話しながら成果を数値化したり見える化すること」です。

「この数値を示すことができれば、定量的な成果として認められる」という1つの正解はありません。企業風土や文化によって異なることもあるでしょう。

まずは自分で設計し測定を試みること、そして数値化したり見える化することが第一歩です。それを元に繰り返し決済者と対話しながら次の改善を図り、組織の Visionとすり合わせていくこと、それが大切だと今は実感しています。

システムコーチング®を実践し続ける際にも「定量成果を示すこと」が求められましたが、コーチング業界ではその事例がまだ多くありません。私は事例が多くない中で苦悩し、模索してきました。

これを読んで頂いている方も少なからず同様の悩みを抱えているのではないでしょうか。


そこで「システムコーチング®の成果を定量化する」ことについて以下に私が実践した例を挙げます。

まず研修効果の測定をする理論「カークパトリックモデル 」を参考に、最初は理論でいうレベル1の満足度から入りました。最初は満足度が高いことにインパクトがありましたが、満足度が安定しても「満足度が高いから継続しよう」という経営の意思決定には至りませんでした。

レベル2は研修で学習した内容について、理解度テストや検定試験、実技試験で習得度合いを測定するものであり、コーチングは研修ではないため適用できないと考えました。

そこで現在はレベル3の行動変容を測定することを試みています。ある10名前後の1つの組織に照準を合わせ、組織が成果を出すためのKATA(Key Action for Team Achievement)を3-5つ作成し、その変容をみるというものです。

2020年6月に開始し、最初はチームビルディングのような相互理解を、その後、3回のシステムコーチング®を実施しました。現在は組織メンバーが意見を出し合ったKATAが定まり実践する段階に至っています。

また今度は、関わる期間中に出た細かな成果の中で、システムコーチング®の寄与度が高いストーリーを事例化し、社内で公開をする予定です。

企業内でシステムコーチング®を実践するには、定量的な成果と向き合わざるを得ません。そこには、どの企業でも通用するという1つの正解があるわけではないので、「実践しながら、決済者と対話する」ことで、各企業に応じたKATAが作れるのではないでしょうか。

そして、企業内でシステムコーチング®の実践が当たり前になることで、良好な関係性が作り出され本来の力を発揮できるメンバーが1人でも増えることを願っています。

写真提供:福山楡青

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