ティール組織におけるチームコーチ事例3選〜ティール組織から紐解くチームコーチの重要性〜vol.2
<ティール組織から紐解くチームコーチの重要性>
vol.1 ティール組織における3つの特徴と仕組み
vol.2 ティール組織におけるチームコーチ事例3選(今この記事を読んでいます)
vol.3 対話で深める「チームコーチ」とは?
vol.4 ORSC®の智慧をチームコーチングへ生かす
vol.5 リモートワークにおけるチームコーチの可能性
昨年、ティール組織の解説者である嘉村賢州さんをお迎えして開催したオンラインイベントの内容を編集しお届けしていく、ミニコラム「ティール組織から紐解くチームコーチの重要性」シリーズ。
vol.2以降はティール組織の仕組みの一つである「チームコーチ」にスポットライトを当てていきます。今回はティール組織におけるチームコーチの事例を3つご紹介します。
ビュートゾルフの地域コーチ
1つ目は、ティール組織といえばこの組織、ビュートゾルフです。2006年に4人で設立され、たった14年で15,000人規模に急成長した組織ですね。15,000人もいるのにバックオフィスには50名程度しかいなくて、このほとんどがチームコーチなんです。
基本的に上下関係の全くない組織で、1000チームくらいで構成されており、各コーチは40〜50チームの面倒を見ているというような感じです。コーチには何の特権もなく、結果責任も担っていません。
ビュートゾルフが素晴らしいのは、顧客満足度が非常に高いのは当然として、オランダで従業員満足度が全業種中でナンバーワンに何度か選ばれている点です。サービスもすごく喜ばれているし、働く人の幸せも圧倒的であるというのがビュートゾルフの特徴です。
1チーム12人で構成されるチームに、ほぼ全権が委ねられていて、チームに「こうしてくれ、ああしてくれ」と指示命令する上司はいません。12人のメンバーが、自分たちで何をどうすべきか決めてやっていることと、それを実現するために、ICTを使った様々な情報の透明化が組織全体で行われているのも特徴です。
ではさらに、チームコーチの観点から深堀りしていきたいと思います。
ビュートゾルフでは、チームコーチを地域コーチというふうにネーミングしています。地域コーチは、階層組織にあるような権限は一切持たないけれど、チームをサポートするという非常に重要な役割を担っています。自分たちの力だけで12名の小さな組織をつくり、自主経営するのは結構大変なことです。採用やプランニング、オペレーション、事務管理まで全て自分たちのチームでやっていくので、非常に多くのことをやらなければならないわけです。
同時に、上司がいないので人間関係の力学にも対応しないといけない。そこで、地域コーチはアドバイザーとして、チームが自分たちで解決策を見つけられるように、示唆に富んだ問いを投げかける役割を果たします。
地域コーチは、「チームにとって望ましくない行動を、内省を通じて認識させ、決定的な瞬間に警告を発して、深刻な問題に対処するために立ち止まることを提案する」というのが役目だとされています。
また、「チームが悪戦苦闘するのは何の問題もない」という説明も興味深いです。つまりは、「苦しみから学べることがあるから」として、「難しい局面を乗り越えたチームは、回復力と強い連帯感を育むことができる」と述べられています。したがって、地域コーチの役割は「予想できるチームの問題を防ぐことではなく、問題解決をしようとするチームを支援すること」であると言っています。出発点には「チーム内の情熱と強みと能力を引き出すこと」ということが常に求められている役割です。
このビュートゾルフという組織の先進性なんですが、実は組織つくりのところにコンサルタントが関わっていまして、昨年その翻訳本『自主経営組織のはじめ方──現場で決めるチームをつくる』をお手伝いさせていただきました。この本にあるコンサルタントの視点から、ビュートゾルフをもう一度見ていきたいと思います。
ビュートゾルフは、結果的にマネジャーも何もいない組織をつくり上げたわけですが、著者のコンサルタントは、緩やかにマネジャーを残しながらも、ティール的に変えていくアプローチが得意だったんです。彼は、マネジャーは指示命令型からファシリテーションを行う立場に変わっていき、同時にコーチという存在が必須になり、この2つの存在があって、チームが主役の自主経営組織をつくることが可能になると表現しています。
そのときのチームコーチの役割としては、以下の5つがあると言っています。
- 現場チームのサポーター
- 問題点を指摘する:シグナルをキャッチするということ
- 問題や対立がおこった際に、仲裁やサポートを提供する
- 業務上の問題を解決するために、社員一人ひとりを支援する
- ミーティングが気持ちよく効果的に行えるよう、チームメンバーを導く
このように、1対1のコーチングもチームコーチングも両方していくし、対立・葛藤のサポートも含まれるというのがチームコーチの役割です。
おもしろいのが、チームコーチが請け負うチーム数は「少なすぎない」方が良いとしていることです(回りくどい言い方ですが)。ビュートゾルフの場合、一人のチームコーチが40~50チーム見ているんですが、あえて10チームとかに減らすことはしない。なぜかと言うと、少ないチームを持たせてしまうと、緻密に丁寧に面倒を見すぎてしまい、だんだんチームがコーチに依存して、チームが主体的に考えなくなるので、それは絶対避けたいわけです。
あくまで主役はチームで、チームがコーチを必要としたときに使えるくらいでちょうどいい、という発想があるわけですね。「現場が主役」という組織つくりをしようとしているということです。
以上、ビュートゾルフという組織に関して見ていきました。
RHDのハブリーダー
続いては、RHD(Resources for Human Development)という組織を見ていきたいと思います。RHDは、1970年に設立された、50周年を迎える4,600人くらいの非営利組織です。アルコール依存症のケアやホームレス支援など、様々な生きにくさを抱えている人たちに、2億ドル規模のサービスを提供している非常に大きな組織です。
この組織も色々な点でユニークなんですが、組織構造とチームコーチに焦点を当てて説明します。
- 安全で開放的な環境:とても開放的な環境で、それぞれが個性的に飾り付けしているオフィスがあります。
- 価値観を共有することに重きを置いている:それをカルチャー化していることが特徴です。
- 創業者の強い想い:多様な人たちが本当に安心感を持って働くということが、とても重要なのだという想いです。
- 安心・安全を育む仕組み:何でも言えるオープンな仕組みが様々に備わっています。
- 自主経営チーム
- 「ユニット」というチーム単位で動く。平均20名、多くても40名〜50名。
- 自分たちの目的意識、誇り、存在意義をそれぞれ考えるように促されている。
- ユニット内に職務記述書はない。ユニットは戦略の決定から職員の採用、購買、予算策定、結果検証まで自分たちのあらゆる運営に責任を負う。
- 「ユニットディレクター」と呼ばれるチームリーダーがいる。ユニットディレクターは意思決定を押しつけることも、一方的にだれかを採用したり解雇したりすることもできない。
- 「ハブリーダー」と呼ばれる役割の人が軸となって、多くのチームを支援する。ハブリーダーは大きな問題が起こるかその可能性が高いときには常に情報を知らされることを期待している。彼らは助言や支援を提供するが、問題解決の責任はユニットが負う。ハブリーダーには業務上の目標はなく、各ユニットの収益責任も負わない。
- 本部職員の役割は最小限に抑えられている。
- 専門職員(たとえば、各チームの財務問題を支援する予算担当マネジャーや、臨床レビューの専門家)はユニットからの相談に乗ることができるが、最終決定はユニット、つまり各チームに委ねられる。
- RHDには、研修(同社の「ミニ大学」)、不動産管理、給与支払いなど、現場にいるあらゆるユニットを支援するユニットがある。
基本的にはチームが主役の組織です。精神障害者用の看護ホームユニットや、ホームレス向けのシェルターユニットというのが、平均20名・最大40〜50名くらいのチームで編成され、約200ユニットが横並びになっているという構成です。採用、購買、予算など、全ての業務をチームで完全に担っています。
一応「ユニット・ディレクター」と呼ばれるリーダーは置いていますが、意思決定を押し付けることはなく、採用・解雇できる権限はなく、ちょっと緩いまとめ役みたいなリーダーとなります。
さらに、いくつかのチームに対して「ハブリーダー」という存在がいます。そのハブリーダーが、ちょうどチームコーチのような役割で貢献しています。大きな問題が起こる可能性が高いときに、「シグナルをちゃんと伝えてね」という感じで助言や支援の提供を行います。
ユニットが問題解決をちゃんとできるように支援するのみで、ハブリーダーが結果責任を担うわけではなく、いわゆるマネジャー的な存在ではないということですね。このRHDという組織も、ハブリーダーという俯瞰的なチームコーチ的な存在がいるので、現場主役・主体のチーム運営が上手くいっているという事例になります。
ハイリゲンフェルトの4種類の外部コーチ
続いて、「ハートで仕事をしているか」を追求する精神病院、ハイリゲンフェルトという組織の説明をしたいと思います。
約600名の組織で、リハビリテーションセンターと4つの精神病院をドイツで運営しています。とても人を大事にしていて、「ハートで仕事をできているか」ということを組織のテーマにしています。特徴としては、マインドフルネスが充実していて、内省できる空間や時間、瞑想の時間、沈黙の時間などを設けています。
2週間に1回、600人全員がバーチャルも含め集まり、「わたしたちにとって責任とは何だろう」「勇気とは何だろう」などといったテーマで対話しています。年に1回の評価的な振り返りのときには、厳しい評価ではなく、「わたしはハートで仕事しているのか」ということと「自分は正しい場所で働いていると感じるか」ということを、心に問いかけることを中心にしています。
ユニークな仕掛けとしては、「誰も座らない椅子(Empty Chair)」を会議の際に置いています。会議をしていて自分のエゴが立ち上がってきたときに、この空席の椅子に座り、「このチームや組織はどこに行きたがっているのか」を耳を澄まして感じ取る、という独自の会議方法です。
ビュートゾルフとRHDは組織内にコーチを置いていますが、ハイリゲンフェルトの場合は、組織外にコーチを置いている点が大きな特徴になります。専門的な領域の異なる4種類の外部コーチと提携して、「人間関係のコーチ」「組織開発のコーチ」「システム思考のコーチ」「リーダーシップのコーチ」から、毎月コーチングを受けられる時間枠を何時間も用意しています。どのチームも1年で少なくとも1回はコーチングを受けるように推奨されていて、平均すると年にだいたい2〜4回くらいのコーチングを受けているそうです。
外部コーチの助けを得ながら、チームメンバーたちにどのような緊張が生まれているのか、それを解決するにはどうすればよいかを話し合い、チームとして健全に機能するようにしているのが、ハイリゲンフェルトの特徴になります。
嘉村:ティールを探求しはじめたときには、色々な観点があったので、はじめはチームコーチというのが自分の中では全く重要と感じていなかったのが、ここ半年から1年くらいで、結構な肝の部分ではないかと思いはじめてきています。
今リーダーに対して、「よりファシリテーターになりましょう」とか「コーチングを学んで1on1しましょう」という流れがあって、これってリーダーがより担うものが増えてしまうので、悪手なのではないかという気がするんです。
リーダー、責任者というものを置かずに、「チームが全員責任を持って達成していくんだ」という中で、人間関係も含めて、外部が対等な関係を築いてサポートする方が、実はシンプルで良いのではないかと思ったときに、チームコーチが自分の中で大事な存在である気がしてきました。
vol.3はイベント内で集計したチームコーチに関するアンケート結果や今回ご紹介したティール組織での事例をベースにイベントのトークセッションを一部抜粋してお届けしていきます。
【ティール組織から紐解くチームコーチの重要性vol.3】
【関連記事】
イベント記事全編はこちらから