システムコーチングから見えるチームコーチの可能性

チームコーチとチームの自主経営

原田:システムコーチングを行う前提として、ディープデモクラシー(深層民主主義)という考え方をお伝えするようにしています。「声なき声を声にしていく」というアプローチのことで、裏では語られているけど表には出ない声や、個人の内面に隠された声の重要性を啓蒙しています。システムコーチ自身が、普通は言いにくいようなこともあえて小さな声として発言することで、チームのみなさんが何でも言いやすいオープンな関係性を構築するようにしています。

わたしは今、「武者修行プログラム」という大学生のインターン生約40名の組織に、チームコーチとして関わっているんですが、関わり始めた2年半前から「自分たち好きなように仕事していいよ」って伝えているのに、自然に上下関係をつくるんです。統括部長や人事部長などの役職に就くと、みんなどこかの会社の管理職のように、指示命令を下したり、同じ大学生なのに上司・部下の関係性が生まれてそれなりの雰囲気を醸すようになってくるんです。

その中で、中間管理職が様々な責任を負うんですが、ファシリテーションもやらなきゃいけない、意思決定もしなければいけない、営業もしないといけないと、どんどんやらなきゃいけないことに追い詰められて、苦しんでいる人が多くいる。横で見ていて「好きなようにしていいよ」って言っているのに、自分たちの勝手な思い込みが生み出した、管理する側とされる側のすごく窮屈な関係性が見えていたんです。

ただ、この組織では「本音を言う」ことがとても大事されているので、葛藤や不満など奥にある本音を語り合うことで、組織の中に眠るディープ・デモクラシーをどんどん出し合うことで、組織の中にある矛盾を扱いながらお互いの想いを重ね続けることで、2年かけて完全フラットな組織に変化してきました。

最近では「一人一役一変態」というキャッチフレーズが出てきて、一人が必ず一役を担って、変態(自らが行動を変える)し、成果を出しいていくんだという考えのもと、40人それぞれが動き出しています。こうなるとマネジメント機能が要らなくなってきて、各々が協力し合いながら数字の管理をはじめたり、イベントをプランニングしたり、運営全てを学生自らがやりはじめています。もちろん問題は山積ですが、この本音(ディープデモクラシー)が大切にされていくことで、どんどん進化していく不思議な組織なんですよ。

未来の組織のあり方

島崎:チームコーチが必要とされて活躍するための前提として、チームの自主経営ということを普通に話していますが、未来の組織ってどうなっていくんでしょうね。

嘉村:日本中にティール組織がどんどんできていくとは思えないし、フレデリックが言うようにティール組織を目指すのが正解でもないわけです。ただし、たとえ組織に階層構造が残ったとしても、もっとリーダーの責任や負担をチームで分担していく方向にはなるんじゃないでしょうか。

この前、元ラグビー監督の中竹竜二さんとお話したときに、中竹さんが監督時代に学生に「責任は俺が取るから」と言っていたら、主将が「いや責任は俺が取ります」と言い出し、さらにチームメンバーが「責任を取るのは自分たちだ」と言い出したんです。ティール組織では「トータルレスポンシビリティ」と言いますが、チームの全員がチームの存在目的に責任を持っている状態ですね。

最近の海外の流れでも、CEOという存在自体が間違いを生んでいて、CVO (Chief Vision Officer) に変えるべきだという考え方があります。つまり、社会に必要なことを探求する役目と経営責任を負う役割を両方持つと、ビジョン探求がおざなりになってしまうということです。今の世の中、責任という名のもとにリーダーやマネジャーがあまりにもいろんなことをやりすぎているので、そこが緩んでいく組織は増えていくんじゃないでしょうか。

原田:責任を押し付けるの真逆で、責任を自分で無理やり取りに行くことが、会社での自分の存在意義だと感じているCEOやリーダーもいるかもしれませんね。

島崎:世の中の流れや変化が速く、複雑で不透明な状況の中で、チームがより速く変化に対応するためには、リーダーとしての権限や責任を手放すことができる人ほど周りからの協力も得られて、結果的に速く目標に向かえるというプロセスも生まれそうです。この変化のプロセスは、ある意味組織のカルチャーを変えることでもあるので、そのときにチームコーチがいたらいいんだろうなという気がしています。

原田:リモートワークになって、チームの状況が見えにくいからこそ、見える化するために外部のチームコーチを活用するという方法もあるのかなと思いました。

嘉村:あとこれはかなり厳しいとは思うんですが、フレデリックが指摘するように、今の企業はあまりにも自己の生存と成長に軸足を置いているので、「自分たちは世の中に必要なのか」「社会に何をギフトできるのか」ということを組織が問い直すことが増えていくかもしれません。

個人レベルでは「人生の大切な時間を使って世の中の役に立つ仕事ができているのか」ということを問われる時代にさらに入ってきて、それを模索できていない組織は個人を統率するしかなくなってくるわけです。一方、ビジョンの探求に舵を切った企業では、統率しなくても人はやる気を持って働くでしょう。

また、「本当に世の中に必要なもの」や「ギフトとなるもの」を見つけるセンサーは現場の方にあるので、階層構造の壁で遮断された状態から現場の声を取り戻すためには、安心安全に本音を発言できることが大切になるでしょう。

結局、よりトップダウン的な俊敏性を取り戻して生き残る組織と、オープンに開いて柔軟に組織構造も変えていく組織と2極化するような気がします。

原田:安心安全な場ということで言うと、こういう不安定な世の中だからこそ、一緒に未来をつくっていける、立ち向かって行ける、安心感のあるチームや組織が生き残っていくんじゃないかと聞いていて思いました。

島崎:よりチームの一員であるということをどれだけ自覚できるかが問われますよね。

嘉村:先端的なティール組織では、出たくない会議は出なくていいし、外れたいプロジェクトは自由に外れてくださいとしていて、その方が組織としての「気付く力」が高まるというんですね。集まる価値がない会議には集まらなくていいわけだし、人が抜けていくプロジェクトはそもそも不要だったといち早く気付けるわけです。リーダーが共感的な振る舞いやビジョンを出せないんだったら、誰もいなくなるというシビアな関係をつくった方が、はるかに感度高く進化していける組織が築けるという時代に来ているわけです。

嘉村:今回は聞きたいことも聞けて楽しかったです。次はぜひ体感覚的にお話したいですね。ティール組織とシステムコーチの観点をシリーズ化して、長期的にディープな探求をやっていきたいと思いました。

島崎:ありがとうございました。この探求の旅は組織の話にとどまらず、社会も世界も一つのシステムとして、全体的に変わろうとしている時代を見通して対話を続けられたらと思います。

原田:この3人で話すと気付かされることが多くて、とても楽しかったです。組織の内部でシステムコーチングの知恵を使っていくことに探究心を持っていたので、チームコーチの実践者として組織に関わっていった結果、いつの間にかティール組織っぽい感じになっていたということを改めて感じました。

また、チームコーチという言葉を切り口に一緒に探求の旅を歩ませていただければ嬉しいです。

【前編】チームコーチの重要性をティール組織の事例から紐解く

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