チームコーチの重要性をティール組織の事例から紐解く
目次
ティール組織に至る時代の文脈
嘉村:それでは、わたしの方から、ティール組織に関してチームコーチにフォーカスを当ててお話したいと思います。ティール組織を提唱したのは、元マッキンゼーのコンサルタントだった米国在住のベルギー人、フレデリック・ラルーです。経営者も従業員も幸せを感じられない今の組織のあり方や、企業の目的が成長や生存に暴走していることに疑問を抱いた彼は、世界中の組織の探求の旅をはじめました。その中で、組織、教育、行政、農業、医療など、様々な分野で新しい時代が生まれはじめているという、大きな時代の文脈の流れを見出していきます。
フレデリック・ラルーは、歴史を俯瞰的に見ると、社会は大きく3段階のジャンプをしており、今世界は3つめのフェーズに入りつつあると言っています。
1番目のジャンプは狩猟採集時代から農耕社会へのジャンプです。この時代の世界観は、「自然は人がコントロールできる」というもので、人が人という自然をコントロールして、組織というものをつくりはじめます。
2番目のジャンプは、産業革命・情報革命の時代になって、組織と組織が出会い、国と国が出会って競争が高まっていく時代になります。この時代の世界観は、「ものさしで測ることによって、分析してさらなる成長をつくりだす」というパラダイムです。教育にはテストと偏差値が導入され、企業ではKPIを設定して評価するなど、生産性を高めていった時代になります。
それでは、3番目の新しい時代の息吹とは何か?
たとえば農業では、従来は同じ種類の作物の畑をつくり、肥料と農薬を投下して一斉に収穫していたのが、最近だと「栄養を固定しやすい野菜」、「場を殺菌する野菜」、「虫を寄せ付けない野菜」などをまぜこぜに植えることで、農薬や肥料がなくても栄養価の高い野菜が採れるという自然農法やパーマカルチャーみたいなものが出てきました。
医療の分野でいうと、2番目のパラダイムでは、患者の患部を分析してこの病状にはこの薬を投与するとやってきたのが、「病気というのは生活リズムや環境など、様々な要因が組み合わさって表出したもの」なので、患者の全体を診て導かないと本質的な治療にならないというホリスティック医療みたいなものが注目されはじめました。
今の先端的な教育では、学年もまぜこぜで、カリキュラムも子どもたちが自分で目標設定して自由に選べるというような自発性の高い学びが現れています。
このように、立ち上がりつつある新しい世界では、まぜこぜとか全体とかシステムに意識が向き、子どもや野菜などの一つひとつの要素が本来のエネルギーを全開できるようにするという、生命体や生態系のような仕組みが色々な分野で生まれはじめている。
フレデリックは、組織にも生態系や生命体のようなものがあるのではないかという仮説を立てて、世界中の組織を研究してまわったわけです。すると実際に、今までの2番目の時代の常識とは全く違うマネジメントを行っている組織が世界中に見つかり、しかもとても幸せそうに働いている。本当にお客さんを喜ばせているし、Google以上の高給与を払っている組織もある。そんなことに驚いた彼は、これらの新しい組織のあり方を「ティール組織」と名付けたというわけです。
そこに横たわっているパラダイムとは、従来だと「タフネス:いかに安定して強固にビジネスをつくっていくか」ということだったものが、今の先の読めない変化の激しい時代で求められるのは、「レジリエンス:しなやかに回復していく力」かもしれないし、困難・混沌を力に変える「アンチフラジャイル」的な組織かもしれないということです。