Mr.Children(桜井和寿)/My Favorites Music
※今回著作権や肖像権を尊重し、Mr.Childrenや桜井和寿さん画像の使用は控えさせていた だきました。読者の皆様にはご理解のほどよろしくお願い申し上げます。
Vol.7はファカルティ土屋志帆がMr.Childrenの桜井和寿さんの詩の世界観を紹介します。曲だけではなく、桜井和寿という人に(勝手に)フォーカスさせてください。
ORSCの視点からミスチルを紐解く
とっても個人的な志向が強いと思いますが、私は学生時代からMr.Childrenの歌が大好きです。当時はORSCなんて知りもしなかったのですが、今になってなぜ響くのかが分かってきたような気がします。その理由はおそらく自分自身が経験してきた、関係性の機微の中での絶望と希望の両方に触れていくのが、ORSCであり、Mr.Childrenの世界観にあるからなのだと思います。
では、そこにどんな共通点があるのか、シンガーソングライターの佐野元春さんがホストを務めるトーク番組「ザ・ソングライターズ」に桜井さんがゲスト出演された時の発言から、紐解いていきたいと思います。
”世の中にあるテーゼ、既成概念の裏にある、それもまた1つの真実”
こんな言葉を、桜井和寿さんは言っていました。
左の人 右の人
ふとした場所できっと繋がっているから
片一方を裁けないよな
僕らは連鎖する生き物だよな
「タガタメ」 (アルバム『シフクノオト』)
ORSCの世界観とピタッと当てはまるのです。ORSCの大前提となるORSCルールとして「誰もが正しい。ただし、全体からすると一部だけ正しい」という考え方があります。物事はキレイなところ、キラキラしたところだけでは決して成り立たず、表裏一体であるという考え方。道教のタオイズム、太極図に現れる陰陽の考え方や群盲象を評すという考え方をベースにしています。
組織や国家における一見「正しい」とされているメインストリームの裏に、同じだけ「見過ごされている声」というのも存在します。ORSCでは、この小さな声をディープデモクラシー(深層民主主義)と呼びますが、これを非常に大切に扱っていきます。それは国家や組織の中にもあるし、個人の中にも常に顔を出さない小さな声の自己として存在しているのだと思います。
まさに今、世界が混乱の中にいて誰もが正解の分からない時代に突入しました。そんな中、未来の可能性のひとつが、世の中にあるテーゼの裏側なのかもしれません。
”無意識が作らせてくれたもの”
桜井さんは「無意識」という言葉をよく使います。アーティストはよりインスピレーションを大事にして直感に従って歌詞を書くなどと言いますよね。同時に桜井さんは「無意識に怖さを感じる」とも言っています。人が無意識にする仕草、癖、そこに本質が隠れているというのです。
半信半疑=傷つかないための予防線を
「しるし」 (アルバム『HOME』)
今、微妙なニュアンスで君は示そうとしている
この無意識の世界。アーノルド・ミンデル博士の提唱する「3つの現実レベル」という考え方にとても共鳴する部分があるのです。私たちが行うシステムコーチングではこの3つの現実レベルから物事を見ていくということをします。誰もか合意できる事柄・時間などの事実で可視化できる「合意的現実レベル」のことだけではなく、感情や思いの部分を「ドリーミングレベル」と呼びます。
それだけでなく、体感覚や比喩、システムを1つの生命体として扱うという部分においては、「エッセンスレベル」というひらめきや直感、普遍的な本質など、言葉を超えた感覚的なものを研ぎ澄ませてコーチングを行います。無意識の仕草をキャッチしたら、それを「シグナル」と捉え、言葉以上の情報をそこから紐解いていくことがあります。
そこには「無意識」という目に見える「意識」の世界よりもずっと大きな影響力を持つものがそこに存在するのです。桜井さんは、そんな人の奥にある繊細な感情や、無意識からのメッセージを歌に乗せているんじゃないかなと感じています。
”単純にハッピーなだけでもなく、悲しいだけの作品はないように思う”
「白か黒で答えろ」という難題を突きつけられ
「GIFT」(アルバム『SUPERMARKET FANTACY』)
ぶち当たった壁の前で僕らはまた迷っている 迷ってるけど
白と黒のその間に無限の色が広がってる
君に似合う色探してやさしい名前をつけたなら
ほら一番きれいな色 今君に贈るよ
ひとつにならなくていいよ
「掌」(アルバム『シフクノオト』)
価値観も理念も宗教もさ
ひとつにならなくていいよ
認め合うことができるから
それで素晴らしい
「多様性」という言葉は使わずとも、それが伝えたいメッセージなんだと思います。我々人間は、社会性をもった生き物です。たった一人で生まれることも、死ぬこともできません。どんな人でさえ、関係性の中に生きているのです。一人で生きられない生き物だからこそ、誰かと一緒にいたいのに、違うから葛藤する。違いすぎると、怖ささえ感じる。その違いから葛藤し分断することが辛いから、一人でいた方が楽なのだけど、それでも何かを誰かと分かち合いたい矛盾がある。この面倒くさくて愛おしい世界こそが「関係性」をど真ん中に置く、ORSCの世界観なんだと思います。
コロナ禍の世の中で、世界は分断に向かっていくのか、統合に向かっていくのかという岐路に立たされていますが、この歌詞のように、同一性を持ってひとつになるのではなく、色とりどりの多様性を包含した地球の中で、それぞれが人間らしく生きていけることを願っています。