コロナ禍で顕在化した課題に向き合う組織内チームコーチ

コロナ禍を経験したことで顕在化した企業の課題とは?

この記事を書いているのは2021年11月。緊急事態宣言が明けて出社を促す方針の企業が出てきており(出社と在宅、どうバランス 米ITは「週3日オフィス」)、街の飲食店も徐々に活気を取り戻しています。私はCRR Global Japanのファカルティですが、本業では1,000人規模のITサービスの企業に所属し組織内チームコーチとして活動しています。その企業ではリモートワークと出社のハイブリッドの働き方になりました。一部のリモートワークメンバーがいるチームの朝会は、オンラインで実施するというような状況になっています。

そこでコロナ禍という環境の中でどのような企業の課題が顕在化したのでしょうか?
企業の課題について少し考えてみたいと思います。

私の所属する企業において認識していることは以下のようなことです。

・出社時によくあった食事を共にする機会や隣の席同士の会話、オフィス内での偶然の出会いによる会話は一時的にほぼなくなった
・目の前の仕事に対するモチベーションについて考えたり悩んだりする人が増えた
・個人が抱く感情や想いを仲間と分かち合えない

コロナ禍により一時的にリモートワークが中心となったことでコミュニケーションの機会が減り、個人のモチベーションに影響しているように感じます。そのようなことをまとめている記事も多くみられます。

ではこのような状況についてORSCの智恵を使ってみるとどのように捉えられるでしょうか。

課題をどう捉えるか

ORSCの智恵である「3つの現実レベル*1」という考え方をご紹介します。

まず、ここで出てくる「3つの現実レベル」を定義すると以下のようなものです。

●合意的現実レベル:
目標数字やKPIなど、誰の目で見ても明らかなもの
●ドリーミングレベル:
感情や想いなど、目に見えにくいもの
●センシェント・エッセンス・レベル:
言葉にできない感覚的なもの


これを組織に当てはめて考えてみると、社会の痛みを解決したいなどのセンシェント・エッセンス・レベルの感覚から創業者が会社を始め、ミッション・ビジョン・バリューのようなドリーミング・レベルの想いが育まれ、OKRやアクションプランなどの合意的現実レベルで具体的に事が進み成長していくというように捉えることができます。

この考え方を使って前述のコロナ禍の企業において起きていることを解釈してみると、雑談など日常的な会話が減ったことでドリーミング・レベル(感情や想い)を仲間と分かち合う機会が減り、通常の会議では合意的現実レベル(数字や仕事の進捗)についてのみ会話をしていると捉えられます。

例えば営業の役割で想像してみると、リモートワークでは仕事の失敗や失注した悲しみや苦しみを仲間と分かり合えず、また受注した喜びを共有できずに達成感も味わいきれない中で、オンライン会議で顔を合わせる時は数字や案件の事柄の進捗確認に終始する。

なぜこのようにリモートワークでの会議は合意的現実の内容に終始するのでしょうか。その理由と考えられるものを2つ挙げると、1つはオンライン会議になったことで対面会議の時にあった会議室への移動時や会議前の余白にあった雑談がなくなったことによる影響がありそうです。2つめに、この記事「Zoomでの会話に疲れを感じるのは「小さなラグ」が原因だった!? ミシガン大学が発表」にあるように、オンラインツールによるストレスが発言自体を妨げているということもあるかもしれません。

私はこのようなチームとしてのドリーミング・レベルを語り合う機会の減少が、個人のモチベーションに影響している可能性があると考え、これがコロナ禍で顕在化した課題だと捉えています。

このような組織の内面的で目に見えにくい課題を解決するために、ORSCの智恵を活用し、チームの関係性に直接関わる組織内チームコーチが存在します。

*1:参考:アーノルド・ミンデル博士「プロセス指向心理学」

なぜパーソナルコーチングだけではなく、システムコーチングが必要なのか?

私が所属する会社は全社員数が1,000名弱のITサービス企業です。パーソナルコーチング及びチームコーチングが社内制度となっており、誰でも希望すれば受けることができます。私が現在の会社でコーチングを始めて約8年間が経ち、個人コーチングの経験者は累計288名、チームコーチングは直近の半年間(2021年6月から2021年11月)だけでも40グループ277名の参加者となりました。特にチームコーチングの引き合いは増えており、前述の「個人が抱く感情や想いを、仲間と分かち合えない」ことも、チームコーチングを希望する背景にあるのではないかと考えています。

私は当初パーソナルコーチからスタートしました。その後システムコーチングを実践していくわけですが、なぜシステムコーチングを実施することに至ったのか少し触れたいと思います。

それは組織のパフォーマンスを上げることを目的とした関わりにおいて、パーソナルコーチングの限界を感じたからです。パーソナルコーチングではメンバーひとりひとりの可能性を信じて関わり、その関わりからメンバーは気づきや学びを見出し自ら一歩踏み出す行動ができるようになります。ただ、何人かのケースでその行動が実現されないことがありました。それらのケースではチームにおける関係性が影響していたのです。例えば、やる気のあるメンバーが上司や仲間と対立関係にあることでパフォーマンスできないというように。

そこで私はパーソナルコーチングで個人のやる気と行動を引き出すだけではなく、チームの関係性を扱うシステムコーチングも必要であると強く思ったのです。

チームの自覚を促し、自らエッジを越えられるよう支援する組織内チームコーチとは

チームの変容を促す1つの考え方として、エッジモデル*2というものがあります。

今認識している世界(一次プロセス)から認識していない未知の世界(二次プロセス)へ移行するには、大きな山のようなエッジと呼ばれる自らの不安や恐れを乗り越える必要があります。エッジモデルとは、個人もチームも変化・変容する時にはこのようなプロセスを経ていくという考え方です。

最近実施した事例を少しお伝えします。

対象となるシステムは営業とCS(カスタマーサクセス)の混合チームでした。事前アンケートを実施したところ、目指す理想や役割分担が不明確な状態だと見受けられました。一度も対面で会っていないこともあってか、そこには関係性が構築されていないことに起因した遠慮や躊躇が蔓延し、連携が思うように取れていない状態だったのです。まさにこの遠慮や躊躇が、未知の世界への行動を阻害するエッジです。

組織内チームコーチの役割として声をかけてもらい、上記のアンケート結果から互いのチームを国に見立てて旅をするように理解し合う「ランズ・ワーク*3」というツールを選択して、システムコーチングを実施しました。

この「ランズ・ワーク」では、前述したドリーミング・レベル(感情や想い)を扱う次のような問いを意図的に互いのチームに投げかけ、チーム間の理解を促しました。

・あなた方はどんなことに情熱を持っていますか?
・ここではどんなことが難しいですか?
・他のグループからどんなフィードバックが欲しいですか?
・他にこのグループについて他のグループに知ってもらいたいことは何ですか?

コーチングを開始し間もない頃は遠慮や躊躇が蔓延し、全体に問いを投げかけても発言する人は一部のメンバーという状況でした。しかしシステムコーチングを実施していくにつれて受注することや顧客の成功に対する熱い想い、成果へのプロセスの複雑さや難易度の高さによる苦しみなどが語られ、次第に発言も活発になりました。終了時には次への主体的なアクションプランがいくつか出てきて、メンバーの表情も明るくなりました。

このように組織内チームコーチは、日常では扱わない感情や想いなどの内面的な課題を扱い、チームのドリーミングを語り合える場を創り出して次への行動を促します。

*2:参考:アーノルド・ミンデル博士「プロセス指向心理学」

*3:ランズ・ワーク®は、CRR Global Japan 合同会社の登録商標です。 http://wcrrglobaljapan.com/worldworkers

組織内チームコーチは魂の勇者

最後に組織内チームコーチには常にエッジが存在します。それは例えば「このチームに嫌われたら、結果を出せなかったら二度と呼ばれないかもしれない。そして、その先には社内に居場所がなくなってしまうかもしれない」というような恐怖です。しかし、組織内チームコーチ自身もそれらのエッジを越え続ける必要があります。それはなぜかというと、自身の不安や恐怖を越える姿勢やあり方が、その場で対峙しているシステムへも影響するからです。

システムで明らかにされないことを組織内チームコーチは明らかにします。
例えば「このチームにはメンバー間で遠慮や躊躇があるように感じますね」「このチームは特定の方だけがいつも話していますね」など、所属しているメンバーが言いにくかったり無意識で行なっている言動をあえて伝えることでシステムの自覚を促します。

システムコーチに求められるコンピテンシーの1つ「システムは元々知性と生み出す力が備わっている」ことを信じ、そのような不安や恐れを越えて体現していくことで、所属メンバーだけでは出せないインパクトを一緒に創り出していくことが組織内チームコーチの役割だと覚悟を決めています。

どのような組織で関わっていようとも、組織内チームコーチは企業の内面的で目に見えない課題と向き合い、正解のない中で常に自らのエッジを越えて一歩踏み出して関わり続ける魂の勇者です。

組織に所属する多くの人が、組織をなんとかしようと課題感を持ちながら気持ちが伝わらずもがき苦しんでいることでしょう。どんなことでもいいです。不安や恐怖があるけれどこの方向だと確信している先へエッジを越えて一歩踏み出してみましょう。そこには踏み出した人しかわからない未知の世界があります。

【関連記事】