「違い」の対立から私たちを主語に「応援し合う」チームへ/ランズワーク®︎から見えてくること

第5回は、組織にシステムコーチング®︎を導入することで、チームとそのリーダーがお互いに影響を与え合いながら変容していくプロセスを1回のセッションに焦点をあててお伝えします。通常、継続して数回のセッションを実施するため、長期視点であることをを加えておきます。

リモートワーク中のリーダーの悩み

コロナ禍の状況が長引くことで、働くスタイルが激変した方も多いのではないでしょうか。多くの企業がリモートの導入で、今まで何気なく交わしていた会話や雑談の時間が減り、その結果としてコミュニケーションが希薄になったり、チームで働いている実感が少なくなったりと、長期化に伴いコミュニケーションの課題がより浮き彫りになっている組織やチームも少なく無いようです。改めて、働くスタイルだけではなくチームの関係性にも変化が必要な時代になりました。

それはマネジメントスタイルも同様で、リーダーはあらゆる方向から決断を迫られ、リモートの先に居るチームメンバーをまとめ、膨大な判断をしていくことを求められています。そして、その判断には正解が無く、緊張感のある状態が続いていて、これからもしばらくは同じ状態が続きそうなことだけは明らかです。

「リーダーは一人で悩んだ末にどんな決断をしたとしても誰かに反対される」緊急事態宣言中に聞いたあるリーダーの言葉が忘れらません。何とも表現し難いリーダーの孤独を感じた一言でした。

もし、リーダーの決断を少しでも理解し、応援し合えるチームだったとしたら。リーダーとチームメンバーの関係性が評価判断を前提とするのではなく、互いを理解し合える仲間であったら、どんなチームになりそうでしょうか。

組織の中の緩やかな「vs」関係

システムコーチとして、社員200名迄位の規模で、大手の子会社やグループ会社、ベンチャー企業が成長していく過程などに関わらせて頂く機会があります。この規模だと、社長がある程度社員全員の顔や名前を把握していることも多く、ボードメンバーと社員が比較的近い距離で業務をしています。日常のコミュニケーションも、例えば喫煙ルームや会議で顔を合わせたり、直接社長の言葉を聞いたり、いわゆる大企業のように社長の顔は滅多に見たことがないという距離ではない訳です。社長だけではなく、リーダー達との距離も同様です。

それにもかかわらず「あの社長は本社から来たから」「あのリーダーは考えていることがわからない」「どうせ数年でいなくなる」「天の一声で全部ひっくり返るからやってられない」「リーダーは自分のことしか考えていない」などの話が隙間から聞こえてきます。公の場で表現されていないものの何となく暗黙知で語られていて、緩やかに「リーダーvsメンバー」の構図が見えてきます。ほかにも本社と支社、現場と管理部門等の細かい「vs」はどの組織にもありますが、多くの組織に必ずと言ってよいほどあるのは、「上層部やリーダーはわかってくれない」vs「メンバーは我々の苦労をわかっていない」という関係性です。

システムコーチング®︎では、この「vs」を「違い」と捉えます。そもそも「vs」が起きるのは、その手前に違いがあるからです。同じだと「vs」にはならないのですが、それぞれの経験や立場、今に至る背景が異なるので、同じはずがなく「違う」が前提なのです。そして、その違いは大きな可能性でもあります。「vs」には可能性が詰まっている。システムコーチングではそんな捉え方をします。

「vs」を「違い」と捉えてみる

さて、そんな緩やかな「vs」がチームとして機能することを妨げていると診断した時にセッションでは、システムコーチング®︎らしい、ランズワーク®︎というツールを使います。(ツールとはセッションの中で使うシステムコーチング®︎独自のステップのある手法を指します)

ランズワーク®︎は、思考と感情の両面からアプローチすることで体感値を持って相互理解を図り、共通の目的達成に向け、機能的なチーム形成に役立つツールです。思考はもとより、感情と体感という部分が特徴的な点です。そもそも違っていてお互い思考で理解し難い状態ですから、どんなに言葉で説明しても意味がありません。それよりも、比喩表現を使いながら実際に身体を動かし、思考の枠を超えて肌感覚で理解するというなんともユニークな手法です。

具体的にはメンバーとリーダーそれぞれを1つの国に例え、メンバーの国とリーダーの国をお互いに紹介し、その国を旅行するという比喩を使いながら訪問し合います。セッションでは実際に床にテープを貼り、国境を作って、その国境を越えて歩きながら国に出入りしながら体感覚にも働き掛けます。


「旅をする醍醐味はなんでしょうか?」
「良き旅行者であるコツは?」

・知らなかった物を発見する 

・未体験の物を楽しむ 

・現地の人と同じように振舞う

・好奇心を持ってその国を楽しむ

そんな風に相手の国を探究します。相手の国の住民になる訳ではない(=相手の考えに自分の考えを変えないといけない訳ではない)ので、国の特徴や習慣をただ受けとめ、理解しようとすることが出来ます。これを読んでいる皆さんも、あなたの国を想像してみてください。

「気候は?」「主食は?」「国境はどんな状態で、それを超える時にどんなことをする必要がありますか?」「その国で最も称賛されることは?」「タブーは?」「必ず訪れて欲しい場所は?」等、比喩表現を通して互いの違いを発見し、認識することで、緩やかに相互理解が始まります。

お互いを応援し合う組織へ


セッションでは、前述したように「リーダーのことはよくわからない」と言っていたメンバーがリーダーの国に入ると、そのリーダーの大変さや世界観を擬似的に体験し、普段は気づかないリーダーの願いや想い、そしてプレッシャーを頭ではなく、感覚的に理解します。「この国、雰囲気重いですね。」「肩に何かが伸し掛かっている」「観光客に格好悪い姿を見せられない」等、メンバーの声が、リーダーにとって自分を理解してもらえたという癒しにつながります。逆も同様です。

最終的にめざしたいのは「私の国」でもなく「あなたの国」でもなく、新たな「私たちの国」を一緒に創っていくことです。違いを認識し、お互いの特徴を理解して、それぞれの国の良さを、リスペクトを持って「私たちの国」に取り入れて創る「私たちの国」です。お互いを大好きになることも、相手の国の住民になる必要もなく、メンバー全員で共通の目的を達成するために「私たちの国」を創っていきます。「私たちの国」だからこそお互いを応援し合う関係性に少しずつ変容していくのです

私は今までもシステムコーチとして組織のチームに関わることで、応援し合う「チーム」に変容し、イキイキとした表情で共通の目的に向かって結果を出し、お互いやチームを誇りに思うリーダーとメンバーの姿を数多く目撃してきました。「vs」から「応援し合う」関係性へ変化するチームが1つでも増えるよう、これからも組織のチームに関わり続けます。そして、ORSC®︎の智恵が確実に孤独な現場のリーダーやそのチームメンバーの助けになることを信じ活動していきます。