コーチングの原点「コーチング・バイブル」
CRR Global Japanの島崎湖です。「My favorites」では、私たちシステムコーチング をお伝えするファカルティたちがシステムコーチング の世界観をより深めていくためにオススメする書籍や映画・YouTubeなどを独自の視点からご紹介していきます。
Vol.1は「コーチング・バイブル 第3版」をご紹介したいと思います。
コーチング・バイブル 第3版
~本質的な変化を呼び起こすコミュニケーション~
ヘンリー・キムジーハウス、キャレン・キムジーハウス、フィル・サンダール 著、CTIジャパン訳、東洋経済新報社、2012年
米国CTI設立者たちによる”Co-active Coaching : Changing Business, Transforming Lives 3rd ed.”(Nicholas Brealey, 2011)の翻訳本です。
この本で初めてコーチングに触れる方にとっては、難解な本かも知れません。私はコーアクティブ・コーチング®を学び始めた時にこの本を手にしましたが、やはり同じ印象でした。ただ、コーチとして20年近く活動してきて改めて感じるのは、私の原点はやはりここにあるということ。何がそう思わせているのか、ここでご紹介したいと思います。
●本の概要:コーチ養成機関設立者たちによるコーチング教本
この本は、米国のコーチ養成機関(Co-Active® Training Institute)の設立者たちが執筆したコーチング教本です。彼らがコーチする過程で、またコーチを養成する過程で体系化したコーアクティブ・コーチング®を解説しています。1対1のコーチングにおいて、コーチとして相手に関わる時のスタンスや、傾聴や気づきを与える質問といったスキルを、そしてそれらを実践するためのアプローチ、コーアクティブ®・モデルを紹介しています。プロフェッショナルはもちろん、大切な人たちとの対話にコーチング的な関わりを活用したいと考えている人に向けて書かれています。
●お勧めするポイント:その実用性と信頼性
「コーチング」と聞くと、コミュニケーションにおける「ハウツー」や「スキル」をイメージされる方が多いのではないでしょうか。確かに、コーチングには基本となるスキルがあり、それらが組み合わさり体系化されているからこそ、組織におけるマネジメントの現場、医療や教育と行った分野にまで広がりを見せているとも言えます。
では、そのスキルを使えば誰でもコーチングが成立させることができるかと言えば、答えはNOです。勿論、スキルと体系に基づいて関われば、ある程度の気づきを相手に与えることはできると思います。しかし、「本質的な変化・変容」を求めるのであれば、スキルを持って関わると同時に、どれだけ相手が自分の正直な気持ちに気づき、それが語られる場を作れるかが重要になっていきます。こうした「コーチング」を行う上で重要なポイントをこの本は示してくれています。
●対等なパートナーシップ、「コーアクティブ」=「協働的」
“「コーアクティブ」とは、「協働的」という意味を持つ造語であり、コーチとクライアントの双方が積極的に協力し合いながら関係を築いていく。(途中省略)コーアクティブ・コーチングにおけるコーチとクライアントの関係は、あくまでもクライアントのニーズを満たすことを目的として結ばれた、対等なパートナーシップであり、実際には「同盟」とも言うべき関係です。(p.22)”
第1章の冒頭の一説です。ここで思い出すのは、あるクライアントの方から「島崎さんとのコーチングセッションはしんどい。なぜなら、自分の正直な気持ちと向き合う時間だから」と言われたことを思い出します。当時の私はまだまだコーチとしては駆け出しで、時にはクライアントに対して怒り、時には励ましたりしながら、とにかくクライアントにとって苦しい時期を共に歩んだ記憶があります。コーチとして私自身もコミットしたクラアイントの目標に対し、相手に対して言いにくいことだけれど、自分の本音であり正直な気持ちを言葉にした瞬間を思い出すと、まさに対等なパートナーシップであり同盟がそこに存在していたことを感じます。
「言うは易し行うは難し」とはまさにこのことで、この絶妙な関係性を、具体的には何をどうしたら実現できるのかもこの本は教えてくれます。
●信頼関係をつくるもの、「傾聴」の重要性
本書の中ではコーチの7つ道具のように沢山のスキルが紹介されていますが、その中でも関係作りに欠かせない1つが「傾聴」だと私は考えます。第3章「傾聴」では「意識の焦点とその影響」について書かれています。
私たちは普段、耳で音や言葉を聞いて情報を受け取っているわけですが、相手が話している内容を理解しようとしてその音や言葉を聞こうとするのか、それとも相手の気持ちを理解しようとしてその音や言葉を聞こうとするのかでは、聞こえてくるものが変わっていきます。それは必然的に、相手への関わり、つまり、次に投げかける質問や共感を示す姿勢にも影響を与えることになり、結果的に話の展開が変わっていきます。
一方で、関わられた相手もその影響を受け、自分の内側から引き出されるものが変わっていくことになります。もし、コーチがクライアントの課題そのものだけでなく、クライアント自身の思考の癖やパターン、大事にしていること、譲れないこと。また、その語られている瞬間の表情や声のトーンにまでも意識を持って聴きけていたなら、コーチングのプロセスの中でクライアントは意識の矢印が自分への内側へ向き、その場が安全であると感じられていれば、誰の評価判断も気にせずに自分の気持ちが語れることでしょう。そこで深い気づきが起こり、課題に向けても本質的な解決に向けて「変化・変容」が始まって行きます。この体験こそがコーチングへの信頼、すなわち、コーチとの信頼関係へと繋がっていくのです。
“コーチはクライアントの話を聞きながら、何に焦点を当てるかを選択していきます。そして、その選択がコーチングの方向を左右します。(p.67)”
と本書の中でも書かれていることが実際に起こるのです。つまるところ、コーチングは「傾聴」によって全てが決まると言っても過言ではないのです。卵と鶏の話ではありませんが、「関係性」が先か、「傾聴」が先か、はわかりませんが、影響しあっていることは確かなのです。
● 意識的、意図的であること、「本質的な変化・変容」に向けて
CRR Global Japanが提供している「システムコーチング」では、「関係性」そのものに焦点を当てていくコーチング手法を用いて、チーム/組織といった複数の人たちに同時に関わることをしています。
これはシステムコーチングに限らず言えることですが、どんなアプローチも、その使い手が何に意識を向けているかによって、関わられる側の引き出されるものは変わります。そして、そこにそもそもどんな関係性があるのかによって、語られる内容やその深さも変わってきます。対象がチーム/組織であっても個人と同じように、そこにはチーム/組織としての感情を持った生き物として、「変化・変容」に向けて関わっていくには「協働的な関わり」、すなわち「対等なパートナーシップ」と、より深いレベルで話が聴けるようになるための「傾聴」は欠かせません。何に意識を向ける必要があるのか、コーチは常に意識的、意図的である必要があるのです。
最後に、CRR Global Japanが提供するシステムコーチング®は、米国CTIのプログラムの1つとしてスタートしました。その後、CRR Globalのプログラムとして独立し現在に至っています。コーアクティブ・コーチング®は、システムコーチングの原点、まさに「神話の起源」とも言えます。システムコーチがシステムの何を見続けているのか、何を信じているのか、そのエッセスについてもこの本を通して感じ取っていただければ嬉しいです。
*コーアクティブ®/ Co-Active®およびコーアクティブ・コーチング®は、株式会社ウエイクアップの登録商標です。
http://www.thecoaches.co.jp/
文:島崎湖(2020.4.15)