組織で働く人たちがイキイキ働く環境を創りたい! 〜組織内チームコーチ™️の存在と可能性〜
CRR Globalの各国のパートナーとのミーティングに参加していると、キーワードとして「チームコーチング」という話を聞く機会が増えてきました。前回の記事でICFがチームコーチングのコンピテンシーを掲げたように、チームへのコーチングが注目を浴びています。チーム・組織に対するシステムコーチング®と言うと、これまではプロのコーチが組織の外部からこの役割を主に担ってきました。
しかし組織の変革・変容を進めるには、外部コーチだけでなく、内部にシステムコーチングを行える人材がいることで、より本質的な変容を進めることができます。そこで、今回の記事では組織内チームコーチ™️の可能性についてみなさんに提案したいと思います。
会社の中に存在している「ゴースト」の存在
私自身、会社役員やマネージャーの方にコーチングを提供していると、「働く人がイキイキ働く環境を創りたいんだよ」と、時々こんな言葉を伺います。そして、このテーマを探求し始めて15年以上経ちますが、システムコーチングに取り組み始めたキッカケもこのテーマが元になっています。それはシステムコーチングでチームへコーチングをしていくことが、チームの可能性がひろがっていき、みんながイキイキしながら働ける環境を意識的に創れるようになるのではないか…と思ったからでした。
その経緯となった私の体験談をすると、私は1999年に外資系製薬会社に入社し2014年までの15年間、会社員として一つの組織の中で働いてきました。当時は就職超氷河期と言われて、何とか内定をいただいた会社でしたが、その会社が入社直前に同規模の会社と合併することになり大規模なM&Aとなりました。そのおかげで入社早々華やかな合併式典に参加できたのですが、その華やかさとは裏腹に、新人研修を担当していた人が途中で退職されたり、研修を終えて現場に配属された時に自分のマネージャーだった人が数ヶ月後に同じ営業になっていたり、会社の統廃合によるポジション廃止、それに伴う降格、リストラなど様々な人事が目の前で起きていました。
そうした背景もあり当時の現場ではお互いに対して不信感を抱き、上司や会社に対する不満を叫ぶ人も多く、両社の派閥争いが目の前で繰り広げられましたし、そんな状況に嫌気が指して辞めていく先輩や同期たちもいました。その時、私は「なんでそんなムキになるんだろう?もう合併したんだから前向いて仕事すればいいのに!」とか「あの人がいなくなればもっと雰囲気良く仕事ができるのにな…」など思いながら会議に臨んでいたことを覚えています。
そして、4〜5年目になったある時、M&A後に辞めて行った人たちと同じように、上司や会社に対しての不満や愚痴を周囲にぶつけている私がいることに気づいた時がありました。「他社に比べて戦略がない」、「(上司に対して)もっと数字の管理しないとダメですよ!仕事して下さいよ!」など必要以上に上司や後輩に対して責め立てたり、誰かの責任になすりつけている自分がそこにいたのです。実はその当時、自分でも「あれ?なんかおかしい?」と思いつつも、衝動が止められず相手や会社を無自覚に非難していました。今から振り返ると、当時の上司や後輩たちに申し訳ないことをしたと思う気持ちと、他責にして「自分は悪くない」と言い張っていた自分に気づき、情けない気持ちもあります。
ただ、その時の感覚は私自身の言葉というより、別の何者かに言わされていた違和感がずっと残っていました。のちにORSC®(システムコーチング)を学ぶ中で、その時起きていたことは会社の中に存在している「ゴースト」の存在が、自分に言わせていたのだと気付きました。
ちなみにORSCの中で伝えている「ゴースト※」とは、その場にはいない、もしくは言葉にはされてはいないが、関係性に影響を与えている存在・人物のことを表しています。例えば、会社の創業者の存在であったり、語録などもまさにゴーストです。私のケースはM&Aの影響で生まれた会社に対する不信感や不安を持つ存在、対立を生み出さなければならない存在がゴーストだったのかもしれません。
(※「ゴースト」はアーノルド・ミンデル博士が提唱されたコンセプトです。)
「誰もがイキイキと働ける場所を創りたい」
その後、私が誰もがイキイキと働ける場所を創りたいと強く思い始めたきっかけとなったのは、全国約1500名へのチーム制導入プロジェクトを通じてに組織風土を変えていくという取り組みでした。約3年弱の取り組みの中でわかってきたことは、上司-部下や先輩-後輩、同僚同士の関係性が実績や日々の営業活動に大きく影響していることでした。
多くの組織が様々な問題を抱えている中でも、幾つかイキイキした組織がありました。そうした組織を改めて見直してみると、チームの中で見て見ぬふりをしていたメンタルモデルに気づいたり、少し俯瞰をしながらその関係性の間にあるゴーストの存在に気づかせてくれる人がいました。またチームとチームの間、人と人の間に入っていく人や対立関係やお互いに溝がある関係性の間に入って繋ぐ役割を担う人、チームの成長を促してくれる人が必ず存在していました。
そして、その人たちは与えられた役割としてではなく「組織を良くしたい!」、「みんなで結果を出したい!」という強い願いから動いていることでした。さらに自分が経験してきた結果を残したチームや組織にはそういう存在の人が必ずいましたし、自分自身も無意識にその役割を果たしていたと思えます。
間に立つ存在
15年間の会社員時代のこうした経験や起業して外部のシステムコーチとして関わったり、組織の内部の人としてチームコーチングを行っていく中で、組織の中に「間に立つ存在」が必要であると強く感じていました。外部コーチとして関わっている時、内部の人と同じぐらい、それ以上に内部の組織のことを考えて、想いを込めて関わります。また経営チームなど内部の変革を担うリーダーが切り込み難い関係性にも私たちは積極的に関わっていきます。同時に内部で変革を担うリーダーは組織全体が目指している方向に向かっていけるように、組織と組織の間や上司・部下・同僚など様々な関係性の間に立ち、調整しながら前に進めて行きます。
こうした「間に立つ存在」をミドルマネジメントの方々に役割を求めれたりすることも多くありますが、業務の成果や管理、コンプライアンス、個々人へのメンタル的な配慮など行っているため、中立の立場として間に立つことを難しくさせています。さらに言えば、マネージャー自身が関係性の当事者になったりすることもあり、この役割を担おうとすると内部で反発が生まれることもあります。
皆さんも誰かと喧嘩や意見が食い違ってお互いに感情的になっている時に利害関係のない第三者が間に欲しいって思った経験があると思うのですが、それは社内の様々な関係性でも同じです。様々な組織を見ていると組織の中に「間に立つ存在」がいることで、よりお互いにとっていい立ち位置の関係性が生まれてくるのではないかと感じています。
この「間に立つ存在」の人は、組織全体を俯瞰して見る力や中立的な立ち位置に立っていることも必要になりますし、時にはリーダーシップをとってチームの声を代弁したり、組織の力を引き出す働きかけをする必要もあります。そのため、非常に難易度が高い仕事でもあると思います。ただ私の経験だけでなく、この数年注目されている書籍「ティール組織」や、幾つかの組織開発系の書籍の中でも、間に立つ存在:組織の中でチームへコーチングを行っていく人の必要性が謳われています。そして、徐々に日本でも事例が生まれ始めています。
組織内チームコーチ™️
CRR Global Japanでは10年以上に渡り、ORSCを通じて「二人以上の関係性の間に立つ存在」であるシステムコーチを数多く輩出してきました。日本に導入された当時は一対一のコーチングが普及していない中で「チームの関係性へコーチングする」という取り組みや「関係性システム™️」という概念を理解してもらうのに非常に苦労したと聞いています。そんな中で様々な組織での経験や数多くの成功や失敗を繰り返す中で知恵を蓄えてきました。また多くの組織も課題解決だけでは解決できない問題があること、システムにアプローチしていく必要があることに気づき始めています。
このORSCは組織の中の組織変革を推進する人やHRBPなど「間に立つ存在」の人たちがチームへコーチングしていくことを通じて、組織・チームの可能性を広げることができる存在として助けになることを確信をして、今回「組織内チームコーチ™️」という存在に着目しました。今回、私たちチームへコーチングするシステムコーチングの知恵から「組織内チームコーチ™️」の役割として下記のように定義してみました。
<組織内チームコーチ™️とは>
チームが組織全体のために機能していくように支援する存在
<組織内チームコーチ™️の役割>
・現場チームのサポーター、チームの「第三の存在®︎」としてチーム内にある様々な声を扱う
・マネージャー・メンバーも含めたチーム全体で起きている問題を発見し指摘する(解決はマネージャー・メンバーが行う)
・人間関係の間で起きている対立、誤解、ズレに中立的な立場で立ち、健全に対立ができるように支援する
・組織開発・チーム開発による個々のリーダーシップをサポートする
・チーム内で起きている様々な問題を「システム全体の問題」として捉えて、組織全体で扱っていくためのサポートを行う
この組織内チームコーチ™️という存在が社内で風土を変えていこうとする人や社内の中で間に立つ人にとって、私たちがお伝えしているシステムコーチング(ORSC)の知恵やスキルが大いに役立つと考えました。そして、こうした間に立てる人がいることで、ミドルマネジメントが自走でき、多くのスタッフの人たちがエンパワーメントされていくきっかけを作り出せるものと感じています。
そして、私はこの取り組みを通じて世の中の多くの組織にもっとイキイキと働ける組織を増やせると信じています。
参考図書:
「自主経営組織のはじめ方 現場で決めるチームをつくる」
アストリッド・フェルメール (著)、ベン・ウェンティング (著)
「ティール組織」
フレデリック・ラルー (著)、嘉村賢州 (著)、 鈴木立哉 (翻訳)
【チームコーチング時代の幕開け】関連記事