アクティブ・ホープ/My favorites Book

Vol.4はファカルティの原田直和が「アクティブ・ホープ 」をご紹介したいと思います。

アクティブ・ホープ

著者:ジョアンナ・メイシー+クリス・ジョンストン
出版社:春秋社

私自身にとってORSCを語る時に、切っても切り離せないのはこの本の著者である「ジョアンナ・メイシー」の存在です。そして、ORSCの起源もジョアンナ・メイシーにあります。ORSC創始者の一人であるFaithは「ジョアンナがいなければORSCはなかった」とまで言っています。彼女の話によるとORSC創始者のFaithとMaritaの二人は、ジョアンナの考え方やワークを広げていく活動を続ける中で出会い、もっと世界に広げていきたいという想いを語り合うところからORSCが生まれてきたと話してています。そのため、ORSCをお伝えする中で、根底にはジョアンナの思想や想いが引き継がれていることが端々に感じられることがあります。

実は私がORSCを受講者として学んでいた頃、ジョアンナ・メイシーの名前は時々引用文献に出てきていたため、彼女の存在は知っていたものの、何者なのかよくわかっていませんでした。しかしORSCCの資格を取得し、実践者として活動していく中で、クライアントとの関係性がうまく築けなかったり、単なるチームビルディング研修の延長になってしまい、思った以上に深くつながり合うような場を作ることが出来ず、そもそも何のためにシステムコーチングをするのかわからなくなっている時期がありました

そんなタイミングで2016年にサンフランシスコでジョアンナ・メイシー本人からワークショップを体験する機会を得ました。彼女は当時87歳(現在91歳)でしたが、全く年齢を感じさせないほどエネルギッシュで、時には力強くダイナミックに、また、ある時にはキュートな姿を見せてくれる女性でした。彼女からの約8日間のワークショップで受けた印象は、一緒に学んでいる仲間たちはもちろん、周りの動植物や自然と共に、深く深くつながり合えるような時間であり、地球との関係性を深めるシステムコーチングを受けているような感覚が何度かありました。

そして、あらためてORSCの根底に流れている、様々な人と人の関係性の奥にある地球や宇宙とのつながりを感じた経験から、自分が学んだORSCをもっともっと現代社会に広げる必要があると心の奥底から思い始め、CRR Globalのファカルティになることを決意しました。そんなきっかけを作ってくれたジョアンナの本を紹介させていただきます。

ジョアンナ・メイシーについて

ジョアンナ・メイシーは、仏教学者であり、一般システム論、ディープエコロジーの研究者であり、同時に社会活動家としても80年代初めから、社会問題や原発事故、紛争問題に向き合ってきました。彼女は様々な問題に向き合い多くの痛みを感じる中で、世界や地球に絶望を感じたとき、そこで意識を喪失するのではなく、感じた絶望としっかり向き合い、その自分の中の痛みは、愛があるからこそ感じることを認識することで、生命のつながりに気づき、一人ひとりの内側にある声・智慧・力、そして他者との深いつながりを取り戻し、目覚めることを様々なワークショップを通して深めていくようになったそうです。そんな彼女が見つけ出したのが「つながりを取り戻すワーク(Work That Reconnects)」のスパイラルです。

本の概要について

この本は、ジョアンナ・メイシーとクリス・ジョンストンの二人が「つながりを取り戻すワーク」の体験からそれぞれ何を学んだかについて会話する過程で生み出されたものです。

現代社会は経済成長がベースにある産業成長型社会が前提に進んでいますが、段々とそのストーリーが崩れ始めており、生きることが困難になりつつある時代になっています。そんな時代の中で、ジョアンナ・メイシーが提唱する「つながりを取り戻すワーク(Work that Reconnects)(下図)」の理論的枠組みを土台に、自分の中にアクティブ・ホープという贈り物を見出し、いかに希望を持って生きることができるかについて書かれている書籍です。長年、ジョアンナが実践してきた「つながりを取り戻すワーク」の理論的枠組みと、その実践法を提示したものが「アクティブ・ホープ」と言えるでしょう。

つながりを取り戻すワーク4つのスパイラル
Work That Reconnect日本語訳
Work That Reconnect

アクティブホープとは何か?

「アクティブ・ホープ(Active Hope)」とは、直訳すると「積極的な希望」あるいは「能動的な希望」という意味になります。「希望」とは、自分の状況が自分にとって望ましい状態になった時に自然と湧いてくるものだと考えられがちです。また、希望の対義語として絶望という言葉がありますが、私たちは絶望している時には中々希望を見出すことができないと考えがちです。しかし、ここで言っている「希望」は、いかなる状況であったとしても、どんな絶望の淵に立っている状況にあったとしても、自分が選ぶことができると考えています。

システムコーチから見たアクティブ・ホープのオススメポイント

現代社会が引き起こしている大半の問題は、人と人の間に生まれています。たとえば、身近な問題で言えば、夫婦や家族の対立や意見や価値観の相違から始まり、地域格差や貧困問題、人種差別、食糧・水の奪い合いから始まる国と国の権力争いや戦争まで、多くの争いや対立は人と人の関係性の間に起こる「分断」からきています。そして、ORSCはその問題を誰かが解決するのではなく、関係するメンバーでお互いにとって「正しい関係性」を模索し、違いを認め多様性を祝福し、対立や変化を受け止め合い、責任や権限を分かち合い、システムで考え行動していく中で答えを見出していきます。私たちシステムコーチは人と人の間に生まれる関係性を意図的に創ることで、意識的につながり合っていく関係性を育んでいくことができる存在だと思っています

一方で日々生活を送っていると「お金を稼ぐ」ことや「自分が楽に生活をする」ことが目的になりがちで、様々なビジネスや生活を営む上で前提として、地球にある限りある資源を使っていることを忘れがちになります。本来は人と人だけでなく、あらゆる動植物や地球環境とも関係性を営んでいく必要があると感じています。その前提となる考え方を科学的な視点や仏教的視点、時間、コミュニティ、人類の歴史、可能性など様々な観点から見直していくときにこのアクティブ・ホープの考え方は大きな道標になると思っています。

この本の中で特に印象に残っているところは、彼女の時間の捉え方です。彼女が提供するワークショップの中でも時間という観点から、様々な生命や祖先たちとつながり人間の可能性を広げていきます。象徴する一節はこちらです。


「人類が登場して現代に至るまでの24万年間の歴史を1日(24時間)として表してみると、1時間が1万年、1分が166年に相当します。人類が登場し、アフリカ大陸から他の大陸へ移動し始めたのが登場から18時間後(人類誕生18万年後)の夕方6時。人類の歴史の95%は狩猟採集民として、小さな村で暮らす生活から農耕を始めた時間は午後11時になる10分前(人類誕生22.8万年後)のこと。その数分後に初めての街が生まれる。24時間を迎える15分前、午後11時45分に仏陀と孔子が存在、数分後にイエス・キリストが、さらにその数分後にムハンマドが生まれる。コロンブスがアメリカ大陸を見つけたのが午後11時58分、24時間まで最後の1分間(午後11時59分)で人口が10億人から70億人に増え、さらに最後の20秒で、23時間59分40秒までに消費された資源よりも、より多くの資源を使っている。(中略)時間をより大きな流れで捉えることの素晴らしさは、それによって、可能性に心が開かれることだ。陸生哺乳動物が海に戻ってイルカに進化することが可能であるならば、現在の人類が地球とのつながりを取り戻し、もっと賢い生命体に進化できると考えたとしてもおかしくない


この100年で多くの地球の資源を使ってきたかもしれませんが、同時に人間の可能性をより開かせてくれた期間だったのではないかと思います。ORSCはこのジョアンナの知恵も含めて、様々な人の知恵を持ち寄り、関係性によって生み出されたものです。これからの時代は、私たち人だけでなく、動植物やその土地を活かしながら、新たな関係性を創り生み出し、より良きものを織り合わせていくことができれば、私たちがまだ見ぬ、新しい形の世界が広がっていくのではないかと考えています。このアクティブ・ホープをより多くの方に手に取って読んでいただけることを心から祈っております。

<お知らせ>
ジョアンナ・メイシーが生み出してきた数々のワークやファシリテーションのノウハウなど全てを詰め込んだ「Coming Back to Life」日本語翻訳版が9月初旬に発売される予定です。
また、それに関連した出版イベントプロジェクトがあります。もしご興味がある方はこちらもぜひ見てみて下さい。私もまだ読んでいません(笑)。

「Coming Back to Life」日本語翻訳版予約販売サイト